タイヤとホイールの説明
ホイールの座面とナット形状の関連性
ホイールに合ったナットとは?
ホイールに合ったナットとは、ホイールの座面(ナットとホイールが接触する面)との形状が合致している物を指します。
一般的な乗用車用ホイールの座面は大きく分けて3種類になります。(ナットも大きく分けて3種類)
テーパー座のホイールにはテーパーナットを、球面座のホイールには球面ナットを、平面座のホイールにはストレートナットを使用し、ホイールとハブユニットを固定します。
形状が合わないナットを使用すると…
ホイールの座面とナット先端部の形状が合っていない場合は、走行中にナットが緩んでしまいます。締め忘れ以外の理由でナットが緩んだ場合、ほとんどは形状の組み合わせの間違いが原因です。最悪の場合、ナットが緩むだけでは無く、脱輪が起き、重大な事故に繋がる可能性があります。最も緩み易い間違いはテーパー座のホイールに、球面ナットを用いる事です。(その逆も同様)
これらの組み合わせはホイールの座面とナットがきちんと接触しない為、十分なボルト軸力を発生させる事が出来ず、徐々にナットが緩んでいきます。
テーパー座とテーパーナット
ホイールのテーパー座とテーパーナットの先端の角度は60度と決まっています。この角度については色々なカタログにも紹介されている為、ご存知の方も多いのではないでしょうか?しかし、ホイールのテーパー座面とナットのテーパー部が、どのように接触しているかは、あまり知られていないように思われます。テーパー座のホイールとテーパーナットの接触部分については、60度の角度だけでは説明出来ない為、ここでもう一歩、テーパーの角度について踏み込みます。ホイールとナットの角度に対する非常にシビアな寸法公差をご存知でしょうか?
一般的なホイールでは、基本的に開発の段階ではホイールのテーパー座の角度は60度より、ほんの少しだけ大きい方向に公差の許容範囲を認めるように考えます。また、ナットの方は公差の許容範囲をホイールと逆方向に、ほんの少しだけ小さい方向に認めるように考えます。
実際の加工時には、ナットのメッキ厚の特徴や、ホイールの加工に使用するドリルや刃物の寸法を考慮して、ホイールテーパー部の下部までナットが収まるように、工場ごと、ラインごとに指示公差が決定されます。(指示段階での公差は必ずしも上記画像のようにはなりません)
大変シビアな加工が行われた結果、テーパーナットの先端がホイール座面の最下部まできちんと収まり、ナットの先端部以外がホイール座面に接触出来るようになります。よく、テーパーナットとテーパー座のホイール座面は面で接触していると勘違いされやすいのですが、実際には面では無く、線状に接触するように設計・作成されています。(平面座のホイールは今回の説明の設計とは異なります)
たまにナットに線状の接触痕が残っているから、面で密着していないのでは?と、質問される事もあるのですが、線状の接触が正しいので問題ありませんと回答するとびっくりされるユーザーさんもいらっしゃいます。
もちろんホイールの座面、ナットのテーパー部をぴったり60度で作成し、すり合わせ加工を行い、光明丹を使用して密着確認を行う仕上げも可能なのでしょうが、現実的には人間の力で引き抜く事が出来ないくらいの嵌合力になり、ナットが外せなくなると思われます。(多分、ホイールとナットの価格も現在の10倍程度になるかと…)
テーパー嵌合とは違いますが平な金属の板も【平面度】と鏡面レベルの【表面粗さ】が組み合わさるとリンギング現象でぴったり密着しますし、金属加工ってすごいですよね! また、テーパーナットの役割はホイールのセンター軸とハブユニットの軸をぴったりに合わせ、ホイールとハブユニットを、しっかり固定する事です。この事により、タイヤ・ホイール・ハブユニット・サスペンションが想定通りに可動し、自動車を支える事が出来るのです。(ナットとハブボルトだけで車重を支える訳ではありません)
話をナットが緩み易い組み合わせに戻します。テーパー座に球面ナットを用いた場合に、緩む原因はナットが線状に接触する事が出来ず、点で接触してしまうからです。点での接触ではボルト軸力が安定しない為、ナットとホイールが少しずつ動いてしまい、徐々にナットが緩んでいきます。もちろん、完全に緩む前にボルトに相当な負荷がかかりますから、ボルトが外側に反り返る変形が起る、或いは、ボルトが伸びてしまってボルト径が細くなる等の変形が起こります。(この場合ネジ山が尖るので、見分け易いです。)また、ナットが緩んで外れる前にボルトが折れてしまう事もあります。
更にホイールナットは一か所でも緩みが生じると、ホイールが少しずつ振動を起こし、他のホイールナットに緩みを生じさせます。その結果、最悪の場合、全てのナットが緩み、脱輪に繋がってしまうのです。
ホンダ車の純正ナットは全て球面座になっています。ホンダ車の純正ナットでテーパー座の社外ホイールを装着する事は大変に危険です。ホンダユーザーの皆様は、くれぐれもお気をつけください。
ホイールのテーパー座の面積について
アルミホイールを色々と比較していくとホイールのテーパー部分の面積の広い商品、狭い商品など様々な種類があります。実際にはテーパー部分の面積が広い方が良いのでしょうか?(ごくまれにテーパーが浅いという表現を使った説明を聞いた事がありますが、浅いとは表面から底までの距離が短い場合や、角度の比較で角度が少ない場合に使用する言葉なので、テーパー部が狭い・広いが正しい表現だと思われます)
前述した通り、ホイールのテーパー座とナットのテーパー部は線状に接触するように設計されています。ですので、テーパー座の面積は線状に接触する以上の広さがあればOKです。アルミホイール同士で比較すると広い方が良い感じもしますが、スチールホイールや、スペアタイヤ(現在はオプションになってしまっておりますが…)のテーパー部をご覧いただければ、テーパー部の必要面積が分かり易いと思います。
更にトヨタ車の純正アルミホイールは平面座が採用されておりますが、スペアタイヤはテーパー座の物が収納されています。座面に合ったナットを使用しないと非常に危険なのですが、トヨタ純正アルミホイール用のナットは先端がテーパーに加工されています。このナットの先端のテーパーとスペアタイヤのテーパー部で、しっかりとハブユニットとホイールを固定する事が出来るのです。ナットのテーパー部が少なく見えますが、一般的なテーパーナットの当たり面と比較しますと、十分な接触面を持っている事が分かります。
応急的とはいえ、下の画像のように車両総重量が1,875kgの200系クラウンを支え、走行する事が可能なのです。(但し、スペアタイヤ使用時は速度制限があり80km/h以下での走行となります。また、スペアタイヤの空気圧も低下していないかご確認ください)
但し、トヨタ純正アルミホイール用のナットは純正ホイールと車載のスペアタイヤ、社外ホイールの純正ナット対応品以外には使用しないでください。先端はテーパーになっていますから、テーパー座のホイールに使える可能性もありますが、ワッシャーがナットホール等に干渉し、正確な取り付けが出来ない場合もあり得ます。
最後にもう一度… ホイールの座面とナット先端部の形状が合わない組み合わせは非常に危険です。
ナットに関するご相談も承っております。どうぞ、お気軽にお問い合わせください。